【開発ストーリー IVE編 vol.2 寄り添う為の高性能Ⅱ 】

ちょっと前回のおさらいを・・・

前回の当ブログでは、IVEが求める高性能は「乗り手に寄り添う為の高性能」で、小径ホイールの自転車に不慣れな方でも、安心して自転車が楽しめる様に開発されている事をご説明いたしました。

前回のBLOGを公開してから気付いたのですが、書かせて頂いた内容が「お客様と製品を通じて、Emotionalな体験を共有する」事に、どうつながるのかまとめていなかったなと・・・

前回のお話しで「ミニベロはフラフラするので怖くて乗れない。」方のお話をいたしましたが、その方からは「IVEなら楽しく乗れます。」とのお言葉も頂けています。

自信が持てなかった下り坂のカーブや、凸凹の路肩をキープレフトで走行する際、自信を持ってライディングする事が出来たら素晴らしいですよね?

「私、自転車に乗るの上手じゃないから・・・。」って、ドキドキしながら走っていた何時もの道が、IVEとなら楽しく走れるかもしれないですよ。
IVEにもちゃんと、他には無いIVEだけのEmotionalが備わっているんです。

おさらいはこれ位にして・・・
今回は、IVEだけがフォーカスしている「寄り添う為の高性能」を実現する為に、具体的にどの様な設計をしたのかをお話ししたいと思います。

◆寄り添う為の高剛性
「速く走る為の高性能」と「寄り添う為の高性能」相反する様にも思える事なのですが、フレームに求められる設計の要件って、深く掘り下げて行けば最終的には同じ事で、違っているのはさじ加減だけなんだなって今は思っています。

例えばですが、スピードがどんどん上がってしまう下り坂のカーブで、道路の左端の限られたスペースをキープして走らなければならい・・・なんて場面では、リアルにスピードを求めるモデルでも、安定感が高くて自転車が何処に向かっていこうとしているのかを感じ取り易いモデルの方が、安心感が大きくタイヤのグリップをフルに使って走る事が可能だと思います。

一方、IVEの様にスピードではなく、安心して楽しく走りたい場合でも、安定感が高くて自転車が何処に向かっていこうとしているのか、感じ取り易い性格が求められることは、前回のBLOG【開発ストーリー IVE編 vol.1 寄り添うための高性能】でもお話ししました。

どうですか?
この2者に求められる事って、同じですよね。
勿論、さじ加減は異なりますが、基本的には両方のコンセプトで一番大切なのは「安心感」だという事です。

では、安心感が得られる「安定感が高くて自転車が何処に向かっていこうとしているのか、感じ取り易い性格」の自転車ってもっと具体的にどういうものなのでしょうか?

基本的には、主要な部分の剛性は高くなければなりません。
ちょっとした凸凹を踏んで、フレームがグニャグニャ変形してしまったら、前後のタイヤがバラバラな方向に向いてしまいますから、自転車が何処に行くか分からなくなってしまいます。

IVEで特に大切にしたのは、フロントフレームとリアフレームの連結部分です。



IVEの場合、前後のフレームが連結されているのは、画像の部分とサスペンションの部分ですが、サスペンション側は、樹脂のサスで連結されているので、そもそもグニャグニャです。
ですから、前後フレームが結合されているのって、画像の場所のみという事になります。

フレームに大きな力が加わった時に、この部分に剛性が無ければ、前後のフレームがバラバラに動いてしまう事になりますよね。其れって、前後ホイールの向きがバラバラって事ですから、そんな状態では、自転車が何処に向かって走っているのかなんて、感じる事は出来ません。

IVEの様なサスが付いている場合、前後フレームの連結部分にどれだけ剛性が有るかって、物凄く大切な要件なんですよ。
IVEでは、BBの連結部分だけならFSXよりも剛性が高いくらいなんです。

IVEでは、BBを一体成型のクロモリのブロックとして、フレームピボットを支える部分の剛性がとても高い事や、支点のシャフトがリアフレームをしっかりと固定できる構造になっています。ここまでやっているフレームはIVEだけって言っても叱られないと僕は思っていて、これだけでも自慢出来るのですが、IVEでは更にこだわっています。それが、画像の赤丸部分です。

ここにはベアリングが内蔵されているんですね、通常なら円筒形のパーツに四角のパイプを溶接して作る形状なんですが・・・
IVEは円筒形のパーツに四角のパイプと同じ形状の凸を設けた専用パーツを作って、凸部分にパイプを溶接しています。

どうしてそんな面倒な事をしているのでしょうか?

円筒形のパーツ内部にはベアリングを押し込んであるのですが、円筒形のパーツに直接パイプを溶接してしまうと、溶接歪が発生して円筒形の円の部分が、微妙に円形ではなくなってしまいます。
そうなってしまうと、円形のベアリングが入らなくなってしまいます。
溶接後にベアリングが嵌まる個所を加工すれば問題無いのですが、色々な理由でそれはとても難しい作業なんです。

溶接歪を無視してベアリングの嵌め合い精度を大きめに設定し、円筒形のパーツに直接パイプを溶接するのが一般的な自転車部品の作り方ですが、それではベアリングを狙った固定力で取り付ける事が出来なくなります。

前後のフレームを連結しているボルトを支持しているのはベアリングな訳で、そのベアリングがしっかりと固定されていないと、どんなにベアリングの支持部分に剛性が有っても、最終的なフレームの剛性は得られません。

その事から、Tyrellでは、円筒形のパーツに溶接したいパイプと同じ形の凸部を設けて、そこにパイプを溶接するという、コストと手間が掛かる方法を採用しています。

IVEの「寄り添う為の高性能」を形にする心臓部と言える部分ですので、妥協はできませんでした。

その効果はとても大きくて、凸凹の路肩でハンドルを取られたり、轍を斜めに横切ったりしても、自転車の進行方向が乱れる事は有りませんし、下り坂で高いスピードの領域になっても、進行方向の予測が付かなくなりそうな気配も見せません。

◆寄り添う為の剛性バランス
寄り添う為の高性能を得る為には、フレームに高い剛性が必要と申し上げた舌の根も乾かないうちに・・・

剛性が高いばかりでは、自転車のフィーリングがソリッドになり過ぎて、優しい乗り味にはならないんです。なんて言ってみたり・・・
要は、剛性が高い所と低い所、各部の剛性を最適化して設計しましょうという事なんです。

以前にFCXの開発ストーリーvol.4の「◆乗り手とシンクロする為のハンドリング」の所でお話しさせて頂きましたが、フレームのしなりがフィーリングの曖昧さを作ってくれます。
その曖昧さが乗り手にとっては、自転車の動きを感じ取る為の時間的余裕をもたらし、結果的に予測し易やすくしているとお伝えしました。

IVEも基本的には同じ考え方で作られていて、色んな所の剛性を調整して曖昧さを作り出しています。
勿論、スポーツモデルとは味付けが大きく異なっています。


IVEのフレーム材は、ヘッド側とBB側で断面の形状が異なります
IVEのフレーム材は、ヘッド側とシートチューブ側で断面形状が異なります。

例えばですが、上の画像を良く見て下さいね。
フレームに使っているチューブの断面形状が、ヘッド側とシートチューブ側で違っている事をお伝えしたいんですが・・・
トップチューブ(黄色)、ダウンチューブ(赤色)共に、ヘッド側が縦に長くて、シートチューブ側が横に平べったくなっている事がお判りでしょうか?

どうしてこうなっているのかなのですが、フレームに縦方向の荷重がかかった場合をイメージして下さい。
ヘッド側は縦に断面が大きいですから剛性が高く、シートチューブ側は縦に断面が小さいですから剛性が低くなります。
縦方向の力に対してですよ。

また、今度は横方向の力に対してですが、ヘッド側の左右方向はシートチューブ側に対して狭くなっています。
横方向の力にはヘッド側の方が剛性が低い事になりますよね。

縦方向に力が加わると、乗り手の乗車位置に近い所でフレームがしなり、横方向の力に対しては乗り手から遠い所でフレームがしなる事になります。

乗車位置に近い部分のしなりは大きく感じ(振幅の周期が長い)、乗車位置から遠い部分のしなりは小さく感じる(振幅の周期が短い)んですね。

縦方向の力(凸凹等の入力)に対しては大きくゆっくり反応し、横方向の力(ハンドルの振れ等の入力)に対しては、小さく反応するというフィーリングのフレームって事です。

縦と横、先の方と根本(乗車位置に対して)で剛性のバランスを変えて「グニャグニャしないんだけれど、適度な曖昧さが有って、動きを予測し易く、かつ動きが何時も安定している。」乗り味を作り出しているんですよ。

IVEのハンドルは太さがφ25.4、固定はボルトが2本
FSX、FXのハンドルは太さがφ31.8、固定はボルトが4本

上の2枚の画像は、IVEとFSX、FXのハンドル固定部分です。
IVEはハンドルの太さがφ25.4、で固定ボルトが2本、FSX、FXはハンドルの太さがφ31.8とIVEよりも太く、ボルト4本でガッチリと固定しています。

IVEが2本止めなのはコストダウンではなくって、ハンドル周辺の剛性をFSX、FXよりも少し弱くする為にこうなっています。

これも、ハンドル周辺の剛性をあえて低くする事で、自転車のフィーリングを曖昧にし、安心感を得やすいフロントタイヤのフィーリングを作りたかったからなんです。

レーシング性能を高めたい場合は、ハンドル周辺はガッチリとした剛性感がとても大切で、フロントタイヤが向いている方向をライダーがダイレクトに感じ取れる性能が必要です。

凸凹路面でハンドルが左右に振られた時、そういったレーシングバイクの場合は、乗り手にその振られ具合をダイレクトに伝えてしまいます(そうでなければ駄目なんですが)。

IVEの様に優しいフィーリングを求める自転車の場合は、もう少し剛性を落として、凸凹でハンドルが降られても、ソリッドなフィーリングにならないように曖昧さをあえて加味しているんです。

◆寄り添う為の重心位置

IVEを真横から見た画像ですが・・・
よくある折り畳み自転車と、フレームの上管(トップチューブ)の高さは大きく変わりません。
でも、多くの折りたたみ自転車の上管は、1本の太くてごついパイプやプレス成型でできていますよね。

IVEのフレームは細いパイプを三角形に組み立てた、自転車では一般的なダイヤモンドフレームです。
1本の太いチューブがフレームの一番高い所にある自転車に比べて、IVEのフレームは重心位置をとても低く作れている事が、上の画像でご理解いただけると思います。

そして、前後に長いですよね・・・IVEの車体は前後に長くて、とても低いので、相対的な重心位置がとても低いという事なんです。
また、前後輪の重量配分を通常よりも後輪側に寄せています。

これらの事は、安定して乗る事が出来る、優しい乗り味の自転車にしたい場合、とても大切な要素なんです。

◆寄り添う為に・・・
如何でしょうか?
折りたたみのサイズや便利なオプション品だけが、オーナー様の自転車ライフを楽しいものにする方法ではない事をご理解いただけたでしょうか?

IVEは乗り物としての本質的な部分を掘り下げて、乗り手に寄り添える性能を、Tyrellの感性で形にした自転車です。

IVEが、一般的な自転車の評価基準では決して評価できない、全く異なる部分を大切にしている事をご理解いただけたでしょうか?

2回に分けてIVEについて、お話しさせていただきましたが、ここまでお付き合いいただいた方なら、IVEも間違いなくTyrellファミリーなんだとご理解いただけていると思います。

でも、僕にはもう少しお伝えしたい事が有るんです。
それは、IVEのカスタム性能です。
スポーツバイクと同じ方法論で作られたIVEのフレームは、セッテイングを変えてやると、驚くほどスポーティーなバイクに変貌したり、荷物を一杯積んでキャンプに行けるようなマルチパーパス性が凄いんですよ。

次回は色々なカスタムIVEをご紹介しながら、IVEの可能性についてお話しさせていただきます。
ではでは、今回もありがとうございました!!