【開発ストーリー FCX vol.4 】
まず初めに、FCXの発売を心待ちにして下さっている皆様に、お詫びを申し上げなくてはなりません。
5月下旬に発表&受注スタート、8月にデリバリー開始を目処に進めてまいりましたが、新型コロナウィルスの影響で、一部の資材が入手困難となってしまい、最終段階の開発スケジュールがストップしたまま、2カ月近くが経過しておりまして、作業を再開する目処が全く立たない状況です。
FCXは国内のTyrellファクトリーで生産されますし、原材料は台湾や国内での調達ですので、スケジュールに影響はないと踏んでおりましたが、カーボンフォークを製造する為の副資材と呼ばれる、製造工程で必要な消耗品が中国からの輸入品となっておりまして、それの入手が全くできない状況なんです・・・
車体の要であるフォークの最終試作品を作る事が出来ない状態でして、車体全体の最終評価が出来ないまま、時間だけが経過しています。
具体的な発表のスケジュールをご案内できないまま、発売延期のご案内を出さなければならない状況となってしまいました。
2月末の段階での僕の見通しの甘さが招いた結果です。
FCXを楽しみにして下さっている皆様、誠に申し訳御座いません。
状況に進展がございましたら、当ブログにてお知らせさせて頂きます。
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お詫びさせて頂いて、少しだけ気が楽になりました・・・
FCXを楽しみにして頂ける様に、頑張ってお伝えいたしますので、今回も最後までお付き合いくださいね。
前回のブログでは「しなり」の重要性と、「しなり」を活かせるフォールディングバイクをどうやって作るかについてお話いたしました。
今回は、FCXの開発要件『1.ミニベロの既成概念を超えた安定感のある直進性。』と『2.ダンシング時のさばきの軽さ。』についてお話ししようと思います。
そのまえに・・・最近、とある筋から「お前のブログには根拠が無い、数値的に証明しなさい。でなければ信用できません・・・」とお叱りの声が・・・
ごもっともですし、僕もそう思っています。でも、具体的な数値の公表はご容赦いただきたいんです。
開発中ですし、そもそも設計情報って社外秘ですよね。
ですので、ご紹介できるのは概念のお話しだけになってしまいます。
何だよとか思わずにお付き合いくださいね。
◆理想的な直進安定性と運動性について
理想的な直進性と運動性・・・何をもって良しとするかは、開発チームの主観が全てな訳ですが・・・そもそも、直進安定性と運動性って相反する要素ですよね。
そのさじ加減を間違ってしまうと、自転車の楽しさが大きく損なわれてしまいます。
開発チームがどのようなイメージを持っているのかお話ししますね。
直進安定性については皆さんイメージし易いとおもいます。
例えばFCXでは・・・
1.手放し走行が容易な事(公道で試してははいけません (^^;) )
2.60km/hのダウンヒルでも破綻しない事 (絶対に公道で試してはいけません(@_@;) )
かなりざっくりしていますが、これ位のイメージを持ってご想像頂ければ、僕達がどれくらいの直進安定性を求めているのか、ご理解いただけると思います。
では、もう一方の運動性について、開発要件では、『ダンシング時のさばきの軽さ』と表現しています・・・これがお伝えするのが難しいです。
僕達が求める理想の運動性ってどんなものなのでしょうか?
ちょっと想像してみてくださいね、ステアリングの反応が素早くて遊びが無い、クイックな特性の自転車で坂道を下っています・・・
右に左に切り替えしながら、後方から来る車をかわしつつ・・・
狙った走行ラインをトレースする為にどんなライディングが要求されるか・・・
ステアリングがクイックな自転車って、ちょっと頭の位置を変えるだけで曲がろうとしますから、とてもデリケートに操作しないとオーバーアクションになってしまいます。
ライントレースする為には、そのオーバーアクション分を修正しながら走る事になりますよね。
極力、修正舵を入れない様にする為には、ものすごく神経を使って針の穴を通すように、狙った走行ラインに自転車を導かなくてはなりません。
そんな自転車で思い切って走る事って難しいですよね。
走るだけで神経が消耗しちゃいます。
20㌅以下のホイールを採用している小径車は、ホイールの慣性モーメントが小さく、タイヤ外周の曲率が急な為に、こういったクイックな性格になり易く、ステアリングの設計が難しいんです。
キャスター角、オフセット量、トレール量が付いたステアリングで保持されている前輪が、車体の傾き(後輪の傾き)に反応して、傾きの内側に向かって切れる事で自転車は曲がります。 又、直進時には前輪が後輪に押されてる事で、ハンドルの中立を保とうとする復元力が発生しますが、これにもキャスター角、オフセット量、トレール量が関わっています。
先にイメージして頂いたステアリングがクイックな自転車って、車体の傾きにステアリングが敏感に反応する自転車と言う事なんですが、ステアリングの設計をおとなしい安定性寄りのセッティングにする事は、直進時だけではなく、コーナーリング時でも大切な事はライントレースの難しさなどから分かって頂けると思います。
FCXでは軽やかな運動性を求めていますが、ハンドリングがクイックな事とは意味が違うんです。
では、どんな運動性を求めているのでしょうか?
『積極的に乗ればシッカリと其れに応えてくれるけれど、基本的には穏やかで自転車自体が積極的に動こうとはしない。』
そういう質の運動性を求めています。
FCXのステアリングはルーズ(鈍感)なセッティングとしてあります。それは、先に書きました直進安定性や、走行ラインをトレースし易くする為です。でも操作に対して鈍感なハンドリングは、安心して乗れるけれど、どん臭くって自転車を操る楽しさが得られるハンドリングとはちょっと違うと思っています。
FCXでは車体の重心位置や、運動モーメントを調節する事で、ステアリングは基本的に安定性よりの性格だけれど、ライダーの操作に対してクイックに反応できる車体のバランスを作っています。ステアリングの運動性ではなく、車体の重心位置等のバランスで運動性を高める方法です。
FCXでは、前後、上下の重心位置を細かく調整して最適化を行い、車体のバランスを運動性寄りのセッティングとする事で、ライダーの重心移動に車体はクイックに反応するけれど、ステアリングの反応は緩やかなので、多少雑な操作になってしまってもステアリングが不安定になりにくく、積極的に乗れるといったイメージです。
ダンシングでは自転車を左右に振りますが、この時にハンドルも左右に振れながら走りますよね。 この時、自転車の軸と自転車の重心位置、ステアリングの特性がバランスしていないと、動きがちぐはぐで気持ち良くダンシング出来ないんです。
そんな事から、開発要件としてハンドリングや運動性の評価を『ダンシング時のさばきの軽さ』と表現しています。
僕達が理想とする運動性についてのイメージが伝わったでしょうか?
小径車の場合は、ステアリングのジオメトリ以外の要素が、自転車の運動性を決める上で非常に重要な意味を持つと考えています。。
700cのロードバイクは寸法的にホイールベースやフレーム形状の自由度が少い事から、動きの軸を動かせる範囲が限られてしまいます。 前出のキャスター角、フォークオフセット、トレール量、フロントセンターが設計の重要ポイントと言えます。
でも、小径車ではキャスター角、フォークオフセット、トレール量が同じでも、ホイールベースや車体の重心位置等の自由度が大きい事から、自転車の動きの軸を設計する自由度が高く、全く違う傾向を持った運動性のバイクが作れます。
もしかしたら、ロードバイクも同じなのかもしれないですが、僕の印象では小径車の方が、重心位置の影響を700cよりも大きく受けると感じて、設計の重要ポイントはフロントのジオメトリよりも重心位置や動きの軸だと思います。
◆乗り手とシンクロする為のハンドリング
ハンドリングの特性を乗り手とシンクロさせるために、FCXのジオメトリがどのようなアプローチで決定されているかはお話しできましたが、ハンドリングのフィーリングを決めるのははジオメトリだけではありません。
フレームのしなり方が乗り心地やペダリングに影響する事はご理解いただけると思いますが、ハンドリングにも大きく影響するんです。
ちょっと話は戻りますが、先に書かせて頂いたステアリングの話を思い返してくださいね。 ちょっとルーズ目のステアリングにセッティングしているのは、乗り手とシンクロし易いからですと申し上げましたが、そのルーズさ加減に関わるのはジオメトリだけではなく、フレームのしならせ方(しなる量ではありません)も重要な要素です。
全くしならないフレームでジオメトリだけを調節し、乗り手とシンクロし易いフィーリングを作ろうとしても、恐らくどん臭い自転車にしかなりません。
最適なしなり方のフレームとちょっとだけ攻めたジオメトリの組み合わせなら、フレームのしなりが、操作に対して自転車が反応するまでの時間差を生み出してくれますから、多少クイックなセッティングでも乗り手が反応できる余裕が生まれます。グニャグニャしない程度のしなりは、ステアリングの手応えとして感じられ、乗り手との一体感を作る上で大切な要素なんです。
例えばですが、車のステアリングには遊びが有りますよね。
遊びが全くない車を想像してみてください・・・どうでしょうか?
真っすぐ走るのも難しそうですよね。
意味合いは少々違いますが、自転車も同じです。
ステアリングには曖昧さが多少は必要なんです。
曖昧さが全くないソリッドなステアリングは、ずっと先に書かせて頂いた、針の穴を通すような操作でなければ思うように走らせることが出来ません。
その曖昧さを作っているのが、フレームのしなりなんです。
乗り手が加えた操作はフレーム(フォーク)→ホイール→タイヤと伝わって、実際の動きに変換されていますが、乗り手とタイヤの間にあるフレームに微妙な曖昧さ(しなり、車で言うハンドルの遊び)が有る事で、ソリッドなフィーリングにならず、操作しやすいと感じる事が出来るんです。
又、しなる量が同じ(強度や剛性が同じ)でも、しなり方や戻り方によって、フレームのフィーリングは大きく異なります。
例えばですが、片方を固定してもう片方に力を加えた時、加える力が同じなら同じ量だけしなるチューブが3本有ったとします(3本のチューブは同じ剛性)。
変形量は同じですが、チューブ全体が均質にしなっている物、固定端側が大きくしなって解放端側はしならない物、解放端側が大きくしなって固定端側はしならない物、これら3本のチューブは同じ剛性でも起こっている事は全く違っていますよね。
これらでフレームを作れば当然、異なったフィーリングの自転車と言う事です。
例えばFCXのシートステーですが、縦方向のしなり方(主に乗り心地とペダリング)、横方向と捻じれ方向のしなり方(主にコーナーリング、ダンシング等)を細かく調整していますが、乗り手に近いシートチューブ側はしなりが少なく、ホイール側(エンド側)は比較的大きくしなる設計となっています。
どうしてそうしているかなのですが、シートステーがしなっているという事は、フロントフレームの向き(自転車の向き)と後輪の向きが、シートステーがしなっている分だけ違っているってことですよね。
同じ量だけしなったとしても、ホイールに近い所でしなっているのと、乗り手に近い所でしなっているのとでは、乗り手が感じるフィーリングに大きな違いが生まれます。
乗り手に近い所でしなる方が、フロントフレームの向き(自転車の向き)に対して後輪の向きが大きくずれているように感じます。
フロントフォークと前輪でも同じことが言えます。
しなる量は同じなのですが、乗り手に近い所でしなる方が、より大きくしなっているように感じちゃいます。
当然、自転車の向きとホイールの向きが大きくずれていると感じる事は好ましい事ではないですよね。
ですから、荷重に対してホイール側からしなりだし、荷重が高まるにつれて根本側がしなりだす設計が必要なんですよ。
フレームのしなり方を設計する事で、操作フィーリングに曖昧さを加味し、より一体感の有る乗り味を作り出そうとしているんです。
ちょっと長くなり過ぎと言うか、深堀し過ぎでしょうか・・・
そろそろまとめに入りますね (^^;)
「どんな自転車よりも気持ちいい。」、「気持ちいいからFCXで走りたい。」
僕達、開発チームはそう思って頂ける事が必要だと思っています。
「ロードバイクで無くても良くないですか?」
そんなご提案が出来る自転車にしたいと、以前お伝えしましたが、その真意は「ロードバイクよりも走るから。」ではありません。
「FCXで走りたくなる」
それが、僕達が追い求めるFCXなんです。
これまで、4回に分けてFCXの設計に関するお話をさせて頂きました。
ここまでお付き合い頂いて、開発チームが大切にしている事が伝わっていれば良いなと思っています(自分の文書力は棚に上げています~)。
開発チームが一番大切にしている事、それは乗り手(オーナー様)とシンクロする事です。 人馬一体(使い古された言葉ですが)・・・。
見て、触れて、乗って・・・全ての所作が乗り手に寄り添い一体感が有る事は、言うのは簡単ですが、自転車と言うプロダクツに落とし込むことは本当に難しい事だと思います。
「御託はいいからサッサと作れ!」もうそろそろ、お叱りの言葉が聞こえてきそうです。
繰り返しとなりますが、今、開発はストップしていると言っても良い状況です。
1日でも早くFCXをお届けできるようにと頑張っておりますので、もう少しお時間をいただきたく存じます。
今回で開発コンセプトや開発要件に対して、開発チームがどんなアプローチで取り組んでいるかのお話は区切りがつきました。
次回からは製造に関するお話を書かせて頂く予定です。
写真が無い記事となってしまいましたが、最後まで読んでくださってありがとうございます。
最後にちょい見せで、自社製カーボンフォークの画像をご紹介します。